補足

@kat0hyu1ch1の、長くなったり連続しそうなツイート

田崎健太 球童 伊良部秀輝伝

ジャーナリストの人が伊良部の生い立ちとか晩年を書いたノンフィクション。

 

そもそも歴史物以外のノンフィクションが好きじゃなくて、自伝は、居酒屋とか美容院とかITの社長みたいな、ワンピースタイプのコンプレックスまみれの奴の虚勢っていう印象が強い。ショボい奴が書いた男道とか遺書みたいな。他伝は、それに心酔する信者の布教、ノンフィクションは、抑揚とかヤマナシオチナシの読み物、っていう偏見がある。

 

ノンフィクションじゃなくても、読書自体、かける時間と得る情報量の折り合いが付かないから、読者よりもエロ動画を見る方が好き。でも、エロ動画を四六時中見てるわけにもいかないから、エロ動画を見てない間の時間潰しの一種に本を読むこともある。という程度。

 

話は戻るけど、伊良部は、飲み屋で大暴れしたり、記者にボールぶん投げたり、手の付けられないトラブルメーカーな一面があって、この本を読むときも伊良部のオモシロ武勇伝でも書いてあるかもと思って買ったんだけど、意外にもシリアスで、示唆に富んでるというか、奥深い内容だった。

 

 

 

大きく3部分かれ、筆者が生前の伊良部にしたインタビューの回顧である序章、筆者が生き別れた父親や親類と会話をする10章と最後のあとがきは一人称で、その他は出来事の羅列と関係者談の三人称で構成される。

 

序章では、伊良部へのインタビューから、理知的な人柄の反面に理性で抑え切れない粗暴さを隠している人格、出生や父親の話になると本心を隠すための嘘を付くナイーブな側面、引退後のアメリカでの生活に退屈しているエピソードを紹介して、本章である事実の羅列とインタビューからそれらを紐解き、自殺という結末に結び付けている。

 

ジャーナリストである筆者は、序章から10章までは形式的には事実の羅列や伊良部に対して辛辣な評価をするものの、事実の側面的な書き方は伊良部に対する同調を誘うもので、あとがきでの文章は完全に同情を誘うものだが、それが巧妙で、インタビュー記事の集まりというよりは、小説的の様な読者の心理の誘導がある。

 

エピソードとして面白かったのは、晩年をアメリカで過ごした伊良部の故郷の話と、生涯人に語らなかった父親の話。山場の1つである、ヤンキースへの移籍の一悶着の真相の暴露は、あまりにも単面的な事実しか書かれていなくて、眉唾物。

 

米軍基地のあった沖縄のコザで、米兵と日本人の間に生まれた伊良部は、生き別れた父親を探すために、得意な野球を使って渡米することを幼少から誓っていた。そして紆余曲折を経て、念願通り父親の贔屓球団であったヤンキースに入団し、試合を見ていた父親と再会するも、戦争のPTSDアルコール中毒で精神を蝕まれていた父親は、母子を見失った理由を説明できず、感動の対面とはならなかった。しかし不本意だったとはいえ目標を達成した伊良部は、メジャーリーガーとして燃え尽きてしまう。

沖縄→東京→兵庫→香川→千葉→ニューヨーク→モントリオール→テキサス→兵庫→ロサンゼルス→高知と渡り歩き、引退後もアメリカに在住した伊良部は、故郷に帰ることを切望するも、アメリカ人の父を持ち、関西弁を使い続け、うどん屋を開業し、オフには香川の寺に通い続けた彼には帰るべき故郷がどこなのかわからない。

 

 

 

ピンストライプのユニフォームを着て、マウンド上でガムを脹らませる本著の表紙の写真は、所属球団と揉め、野次を飛ばす客に唾を吐き、記者に暴力を振るうトラブルメーカーとしての伊良部を象徴するのか、またはマンチャイルド(身体は大人だが精神は子ども)と呼ばれる様に、お菓子のガムを脹らませる拗ねた子どもの様な側面を持つ伊良部を象徴するのか、球童というタイトルも面白い。

 

 

 

面白かったけど、長々と書く程ではなかったもの。

螺旋じかけの海(漫画)

重力が衰えるとき(小説)

沈黙(実写劇場版)